謎のastronomical

mathematical chance は、面白いことに「ありそうにない」という意味になると前回書いたがastronomical を使って同じようなことを表現したと思われる例をいくつか見つけた。しかし辞書にはそうした定義は出ていないし、どうも誤用ではないかとも考えられ、ちょっと不思議な実例である。

日本語でも「天文学的」と比喩的に使われるが、辞書を見ると astronomical は

- immeasurably numerous, high, or great

- of enormous magnitude; immense

と説明されている。特に難しいことはなさそうだが、ネットで拾った次の astronomical chance はどうだろうか。

- Out of the 6 billion persons on earth, you ran into your old buddy at Frankfurt airport. That's an astronomical chance.

- I'd rather have a good chance at winning $500 than an astronomical chance at winning $1million.

- Much of the exciting stuff -- lightning strikes, power surges -- has only an astronomical chance of actually occurring.

- ...there's a very unlikely astronomical chance that anyone involved in the making of the film was in the theatre...

いずれも、「可能性が桁外れに高い」と考えると意味が通らず、むしろ逆に、可能性が「極めて小さい」あるいは「そうならない可能性が極めて大きい」と捉えないと文脈に合わないように思える。しかし書店で見た限り、astronomical についてこうした意味やコロケーションを載せている辞書はなかった。

この astronomical chance を検索してヒットした数は、実のところそれほど多くない。そこで一般的な使い方とは言いがたいようだが、一方で少数とはいえ、実際に使われた例があるとも言えるわけである。この形容詞を同じように誤解して使っている人が複数いるということだろうか。

以上の内容は、実は以前利用していたブログに書いたものだが、そのあと、複数のネイティブスピーカーに質問してみた。いずれも、astronomical chance という表現は聞いたことがなく、自分でも使わないという。また、辞書にある意味と逆のように使われている例については、どうしてそうなるのかわからないという。こう返答されて、何らかの答えが得られるのではという私の期待はしぼんでしまった。

また、最初に書いたエントリには、言葉についてのブログを書いていらっしゃるたんご屋さんから、「astronomical odds という表現ならネット上にたくさんある」というコメントをいただいた。先のネイティブスピーカーも、この表現なら「確立が非常に低い」という意味で使えるという。

odds は英和辞典を見ると「見込み、可能性」とあるが、一方で long odds は「起こりそうにないこと」、short odds なら「起こりそうなこと」と辞書にあるのでややこしい。

astronomical odds も、long odds を強調したものと考えればいいのだろう。そこで、astronomical chance も odds に引きずられたものかもしれないと考えたが、確かなことはわからない。

また、fat chance は「ありあまるほどの可能性」どころか、逆に「まず見込みなし」という意味になるが、こちらに引きずられたのだろうか。

わからないことだらけの表現だったが、仮に本来とは逆の意味で使われた誤用だとしても、それはそれで、そんなこともあるという、言葉の面白さを感じさせてくれる実例ではあると思った。


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「数学の」ではないmathematical
「微妙」なiffy