「シューテム・アップ」~カタカナの題名

小さい子供がいるので休日といえばもっぱら家族サービス、なかなか映画館に足を運ぶことができない。仕方がないので、時々新しい映画の題名をネットや雑誌等でぼーっと眺めることになる。最近、「シューテム・アップ」という封切作があるのを見つけ、はて、こんな英語あったっけと首を傾げた。派手な銃撃戦を描いたものだという短い説明を読んで、初めて原題が想像できた。

映画の邦題として、原語の音をそのままカタカナで表記するようになって久しい。以前も書いたことがあるが、何だかわけがわからないものもかなりあるように思う。

今回の「シューテム・アップ」 Shoot 'Em Up の 'em は them のことだから、「シュート・ゼム・アップ」とでもすれば、まだまし ("the lesser of the two evils") のようにも思う。とはいえ、やはり五十歩百歩 ("It's six of one and half a dozen of the other." "The pot calls the kettle black." "It's the same difference.") といったほうがいいか。

いや、こうしたカタカナの題名は記号のようなもの、目くじらを立てる感覚の方が古いだろうか。原題に関心を持ち、結果として 'em のような英語の省略形を知るきっかけになると前向きにとらえるべきか。そしてこんな風に、対応すると思われる英語を併記するほうが、カタカナ語を使うよりよっぽど日本語を粗末にしているというべきか。

ついでだが、shoot の t と 'em はかなり弱い音になって、「テム」のようにはっきり聞こえはしないだろう。私は英語の音声について詳しくはないので間違っているかもしれないが。

なお、名詞の shoot-'em-up は、「派手な撃ち合いのあるアクション系映画」、また「(ビデオゲームの)シューティングゲーム」という意味である。

さて、カタカナの題名で思い出したが、去年だったか、お騒がせ監督マイケル・ムーアの SiCKO という映画が「シッコ」という邦題で公開された。このカタカナがでかでかと街中に掲げられていた時はちょっと驚いた。

タイトルではないが、sitcom を「シットコム」と表記されることに抵抗があると以前書いたことがある。その時は考えすぎではないかというご意見をいただき、私も「確かにそうかな」と思い直した。しかし「シッコ」については、やはり抵抗感を拭えない。この表記から一瞬でも尿を連想するのは「おかしい感覚」だろうか。

日本語版「ウィキペディア」を見たら、この映画が日本でほとんど話題にならなかった理由として「題名も排尿を連想するような判りにくいものだったことも影響した」とあった。やっぱりそうだようなあと思うより先に笑い出してしまった(関係ないことを書くと、裏づけになる情報や数値なしに、こうした主観的とも思える記述がちょくちょく目につくのが、「ウィキペディア」のこわいところである)。

sicko の最後の音は /ou/ なので、「シッコー」とか「シッコウ」とすればまだましか。いやいや、/si/ の音を考えれば「スィッコウ」とすべきだ。というのはもちろん冗談だが、いずれにせよ、こうした表記を見て、原題とその意味を思い浮かべことができる人は皆無に近いだろう(「変人」「変態」という意味だそうだ)。

映画にカタカナの題名がなぜ多いのか、いまだによくわからない。ネットで徹底的に調べれば明確な理由がわかるだろうか。カタカナであっても原語と違うものはあるし、少数だがカタカナではない題名もある。

脱線だが、清水義範の短編に、日本語がまたアメリカと戦争を始めたため英語が敵性語として禁止され、映画のカタカナ題名などのカタカナ語を言い換えなくてはならなくなった、というような設定の短編がある。あげられていた言い換えがおかしくて笑って読んだものだったが、具体的にはすでに記憶になく、本も手元にないので具体的にあげることができないのが残念だ。例外的に覚えているのが「正義の乱暴者」で、これはシルベスター・スタローンの「ランボー」である。

もうひとつ脱線だが、sicko から、weirdo という単語を連想した。辞書を見ると、-o は「~であるもの、~の性質があるもの、…と関係のあるもの」といった意味を加えるという。例として、freako とか cheapo があげられていた。fatso という単語も頭に浮かんだ。

ところで、「シューテム・アップ」には、「弾丸(たま)んねー」というコピーがつけられている。駄洒落ではあるが面白い。タイトルに眉をひそめ、コピーには感心し、と日本語について両極端の思いを抱かせてくれた作品であった。


参考:
「ワトソン」か「ワトスン」か~「慣用表記」とはいうものの…
「ファインディング・ニモ」