英語を音楽のように楽しむ

"When We Were Orphans" は、以前取りあげたことがある作家カズオ・イシグロが2000年に発表した小説である。そのオーディオブック版を手に入れたが、音としての英語の魅力を存分に味わうことができた。音声教材としても使えるのではないかと思う。

探偵である主人公が、過去の上海での生活を回想しつつ、謎の失踪を遂げた両親の行方を追うというミステリ仕立ての作品である。以前取りあげた "The Remains of the Day" とは違った作風だが、こちらもなかなか読み応えがあり、文章はやはり心地よい。

audible.com というサイトでは、オーディオブックのサンプルを聞くことができる。試聴したところ、私の好きな "The Remains of the Day" は、残念ながら朗読者の声や調子が私にとってはいまひとつという感じだったが、"When We Were Orphans" の方は、「これは買ってみようか」という気にさせられるものだった。

そしてオンライン書店で注文したCDが届き、少しずつ聞き始めたが、金を払って手に入れた価値はあると思った。

朗読をしている John Lee は聞きやすい美声で、登場人物の描き分けでも芸達者ぶりをみせている。もちろん美しいイギリス標準英語で、ほれぼれする語りである。仕事から遅く帰宅した夜は、就寝前に10分程度でもこのCDに耳を傾けるようにしている。英語嫌いの人には考えられないことかもしれないが、こうしていると、その日の疲れが取れるような気になる。

英語学習では、このところシャドウイングがもてはやされているようだ。私がまじめに英語を学習していた二十数年前にはすでに唱えられていた方法なので、なぜ最近になってとりわけ人気なのか、音読ブームと並んでやや不思議ではある。いずれにせよ、そうしたシャドウイングの教材として、こうしたプロの朗読者によるオーディオブックを利用するのもひとつの手ではないかと思う。

こんなことを書くのも、以前、何かの英語教材をたまたま耳にした際、私程度の英語力からみても、余りに大仰な抑揚や不自然なポーズをつけた素人くさいナレーションに、「ちょっとこれは…」と感じたことがあるからだ。書かれた文章を読みあげている時点で、すでに自然な発話ではないわけで、ならば少しでもまともな朗読に耳を傾けた方がいいのではないだろうか。

一方、いくら自然といっても、文章や発音に大きな崩れがある音声は、リスニングの訓練には向いても、自分が口にする場合の規範としてはあまり適していないように思う。また、オーディオブックでも、朗読のプロではなく作者本人が読んでいる場合があるが、文筆家の語りが必ずしも優れているとは限らないのが難点だ。

私は英語教育の専門家ではないので、これ以上深入りすることは避けたいが、ともかく、優れた朗読は、それだけでひとつの芸術作品といえるように思う。英語学習云々は別にして、音楽のように聞いているだけで快感を覚えるのである。

またインターネットのおかげで、自分の気に入った作品を音声で手に入れやすくなっていて、いい時代になったものだ。Project Gutenberg などから、音声ファイルをタダでダウンロードできる作品もある。「英語学習のため」でもいいが、そんな心を抑えて、気に入った朗読を音楽のように聞くのもたまにはいいのではなかろうか。

今晩もこれから "When We Were Orphans" の一部を聞きながら寝るつもりだ。それにしてもこの John Lee 氏、"The Remains of the Day" のナレーションにも起用されていたらよかったのに、と考えてしまった。


関連:
・カズオ・イシグロの英文を味わう
カズオ・イシグロの「日の名残り」~映画と小説

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