「ダメにする」ではない spoil

spoil を「台なしにする」とか「甘やかす」と覚えた人が多いことと思う。しかし、名詞の spoil は、動詞のこの意味から類推したのではあてがはずれることがあるので、注意が必要だ。

The Beatles についての biography "The Love You Make" というペーパーバックに、次のようなくだりがあった。ビートルズに人気が出て、「お持ち帰り」の女性に困らなくなった、という文脈である。

Such were the spoils of fame. Yet for Paul, no matter how many girls he duly dated and bedded, there seemed to be something missing in each of them.

同じ本に、こんな文もあった。

It wasn't until the winter of 1965-66 that the Beatles were able for the first time to spend some months at home and indulge themselves in the spoils of their success.

いずれの spoil も名詞だが、冒頭に書いた動詞の意味から類推して、「名声のおかげでダメになった」、「成功のもたらした堕落にふけった」、というようにとらえればいいのだろうか。

この名詞の spoil は、面白いことに動詞とは逆のような感じもする意味を持つ。ふつう複数形で使う。

- something valuable or desirable gained through special effort or opportunism or in return for a favor

- property seized by victor: valuables or property seized by the victor in a conflict

辞書を見ると、この単語を使った表現の例として、spoils of office (役得) spoils system (猟官制) spoils man (官職占取者、利権屋) spoils of war (戦利品) などがあげられている。

しかし、どうしてこのような異なる意味が出てくるのだろうか。オンライン辞書には語源についていろいろ書かれているが、乱暴に要約してしまうと、この単語は skin stripped from a killed animal の意味を持つラテン語 spolium に由来し、ここから、争いや努力によって獲得したもの、という意味が生まれ、その一方で、収奪を受けてダメになった、という意味で使うようになった、ということらしい。

つまり、一見相反するように見えるが、実は同じものをどちらに視点を置いてとらえるかによって、違う意味が出てきたということらしい。言葉とは面白いものよ、と改めて思う。

ついでだが、名詞の spoil の関連語や類語として、plunder, booty, また despoil といった単語が辞書にあげられている。

さらについでに、動詞としての spoil の説明も読んでみると、おなじみ Too many cooks spoil the broth.Spare the rod and spoil the child. のほかに、A bad [rotten] apple spoils the barrel. (ダメな者が一人いると周囲の者もダメになる)という、ちょっと厳しいことわざがあることを知った。

また be spoiling for は、be eager for something, usually a conflict or confrontation という意味だそうだ、また be spoilt for choice は、have so many options that it is difficult to make a choice ということで、イギリスで使われるという注があった。


参考:
辞書にない「ネタばれ」のspoiler
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