「スシ・ポリス」がやってくる

農林水産省が、ちゃんとした日本料理を出す外国の店にお墨つきを与える制度を設けることにしたという。「ワシントン・ポスト」紙の11月24日付ネット記事で読んだもので、国内ではすでに話題になっているのかもしれないが、なかなか面白い内容だった。

今回の決定には、あやしげな日本料理を出す店が海外で増えていることへの懸念があるといった背景、また、素材から盛りつけまでに心を配るのが日本の食文化であるといった考えなどが紹介されている。一方でこの記事は、日本こそさまざまな外国料理をアレンジして取り入れているという意見や、日本料理の中にも外国の料理に影響を受けているものがある、といったことにも触れている。

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/23/AR2006112301158.html?nav=rss_world

この記事で目についた英語について少し書いてみよう。

Putting the Bite On Pseudo Sushi And Other Insults

これは記事のタイトルだが、put the bite on は「~に金を借りる;強引に要求する」 borrow or extort money from; to ask someone for something that you want, especially money ということ。食べ物の話なので「一口分、ひとかじり」 a piece cut off by biting; a piece of food torn off with the teeth という意味の bite にひっかけてあるのだろう。

ついでに、動詞を使った bite off more than one can you というイディオムがあり、「手に余ることをしようとする」 take on a commitment one cannot fulfill という意味である。

So beware, America, home of the California roll. The Sushi Police are on their way.

Sushi Police は、筆者が独自に考えた言い回しとは思えない気がしてネットで検索してみたら、すでに使われた実例が見つかった。

police を「取り締まりにあたる組織」という一般的な意味で使った偶然なのかもしれないが、その一方で、sushi と組み合わせた過去の例があって、それが一部で広まっているという可能性もあるのでは、とも考えた。ネットでは答えは得られなかったが、もしご存知の方がいたら教えていただければ幸いである。

なお、police は複数扱いで、ふつう定冠詞がつく。

脱線だが、先日、ロシア要人の暗殺計画を告発していたKGBの元将校が、ロンドンで毒を盛られて殺害された。劇画「ゴルゴ13」で取り上げられそうな奇怪な事件だが、彼が毒を盛られた可能性があるのがスシ・バー。寿司も国際的犯罪の舞台に利用されるほど広まっているか、と妙な感心をしてしまった。

元の記事に戻って、英語表現がどうのというのではなく、内容的に紹介したいのが、日本料理と今回の制度についての松岡農林水産大臣の言。

"What people need to understand is that real Japanese food is a highly developed art. It involves all the senses; it should be beautifully presented, use genuine ingredients and be made by a trained chef," he continued.

What Toshikatsu Matsuoka found instead was something he considered a high culinary crime -- sushi served on the same menu as Korean-style barbecued beef.

culinary は related to cooking の意味。culinarian とすると、料理人とかコック、シェフということになる。

Many foreign owners of Japanese restaurants have turned to cooks from other Asian countries to add a faux touch of authenticity to their establishments.

フランス語由来の faux は artificial, but made to look real で、faux pas 「軽率な言動」「失言」という表現も時々見かける。

また、「オートクチュール」に出てくる haute は、英語では単に high ではなく、high-class とか fashionably elegant と、やはり「おフランス」なニュアンスが加わるようだ。

In Japanese haute cuisine, for example, the aesthetics of a meal -- from elegant ceramic serving bowls to suitable flower arrangements -- are considered as important as the food itself.

以下は余談だが、以前、海外と関係する部署にいた時に私が訪れたのは多くが途上国だったが、いくつかの国に日本食のレストランがあった。そして、味や食にうるさくない私から見ても、ほとんどがあまりほめられた味ではなかった。

現地のコックが客の前であやしげな東洋風パフォーマンスをしてから調理するレストラン、また、日本人がつくっているのに競争相手がいないためか、値段は一流、味は三流という店もあった。

これに慣れると、たまに先進国に行ってちゃんとした日本料理店で食事をする機会があり、そこで現地在住の日本人が「あの店の味はどうも…」などと評しているのを耳にすると、「ぜいたく言うな!」と心の中で悪態をついたりした。

私は基本的には「人間、何か食べることさえできれば生きていける。食べ物のことでガタガタいうな」という考えである。学生の時にアメリカを貧乏旅行した時は、毎日安い肉料理でも何とも思わなかった。

しかし、年齢のせいもあるだろうが、年齢を重ねるにつれて、日本料理がぐっと好きになってきた。また、日本料理でなくても、おいしい食事を味わうと、やはり至福のひと時と思ったりする。自分でも矛盾しているが、人間とは理屈では割り切れないものである。

ところで、料理にせよ他の文物にせよ、国際化して他の文化にも受け入れられるようになる過程で、多かれ少なかれ変化・変質を迫られ、esoteric な要素が削ぎ落とされていくのは仕方がないと思うし、それを否定しても始まらない。

それでも、いい意味での authentic なものは、何らかの形で残り続けていってほしいとも思う。今回のような制度を設けることが、果たしてそれにつながるのかどうかはわからないが。

追記(2007年12月):
この認証制度、1年経った最近の状況を知ろうと農林水産省のサイトを見た。が、トップページからは関連のページがすぐには見つからない。サイト内検索で探し当てたのが
http://www.maff.go.jp/gaisyoku/kaigai/
http://www.maff.go.jp/gaisyoku/kaigai/press/index.html
であるが、これらを見ても事実上新しい情報提供は皆無に近い。これ以上ネットで調べることはしなかったが、いったい現状はどうなっているのであろうか。