ゴディバと出歯亀の由来~コヴェントリーにまつわる英語(その4)

劇画「ゴルゴ13」の最新エピソードをきっかけに、まだ行ったことのないコヴェントリーにまつわる英語表現についていろいろ書いてきたが、このイギリスの都市に関連して一般によく知られている名前といえば、やはりチョコレートにつけられた Godiva ではないかと思う。11世紀にここを治めていた領主の妻である。

当時、コヴェントリーの領主は住民に重税を課していたが、夫人はこれを嫌い、税の軽減を訴えた。領主は妻に対して「全裸で馬に乗り街を一周したら考え直す」という。夫人は住民に外を見ないよう求めたうえで、実際に一糸まとわぬ姿で馬に乗って街を巡った。領主も折れて、税を軽減した、という。めでたしめでたし。

20世紀になって、この実在の女性の名を冠してできたチョコのロゴも、馬に乗った彼女だ。コヴェントリーの中心にも、そうした像が建っているという。

また Lady Godiva が全裸で街を一周したときには、こっそりと覗き見した男がひとりいたことなっていて、Tom というこの出歯亀は天罰を受けて失明した。これがかの Peeping Tom の由来となったという。

こうした一連の話は、やっぱり伝説だろうと私などは思うが、
http://mysite.wanadoo-members.co.uk/parsonal/godiva.htm
の筆者によると、Lady Godiva の全裸のエピソードは同時代の記録にはなく、文章として最初に出たのは彼女の死から100年後のことで、しかもその作者は誇張が多いことで知られた人物だったという。出歯亀トムの話はもっと後世、17世紀になってから出てくるとのこと。その他の要素も考えに入れてこの筆者は、

In conclusion it seems clear that the historical Godiva whilst pious and generous did not make any sort of tax protesting ride through the streets of Coventry; romantic and heroic though the story is.

としている(英語面では、the historical Godiva という言い方がちょっと面白い)。まあこれが妥当な見方なのではないか。

ついでに書くと、Peeping Tom の類語として voyeur というフランス語由来の単語がある。voyeurism とすると「覗き見」ということになる。

余談だが、もはや死語かもしれない「出歯亀」は、調べてみたら、これがなんとも意外かつ興味深い由来と挿話を持つ言葉だった。かいつまんで書くと、

- 1908年に東京で起きた強姦殺人事件の犯人として逮捕された「出歯の亀吉」こと池田亀太郎にちなむ。

- 彼は覗きの常習犯だったが、この事件の真犯人だったかどうか疑わしい点があり、冤罪の可能性も指摘されている。

- 彼は「出っ歯」ではなかった可能性がある。

(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E6%AD%AF%E4%BA%80)

なおチョコレートのブランド名は「ゴディバ」だが、英語の Godiva は -i- のところが /ai/ と発音されるので注意が必要だ。チョコが有名なせいか、コヴェントリー領主夫人の日本語表記も、「ゴダイヴァ(ゴディバ)」のように併記しているものがある。

発音といえば、コヴェントリーには自動車の Jaguar 本社があるが、この単語は日本語の「ジャガー」から想像される発音とは違う上、英米でも音が異なるのでこれまたややこしい。以前、このメーカーの車を乗りまわしている日本人の会話を耳にしたことがあるが、彼らは「ジャギュア」と呼び、「ジャガー」は1回たりとも使っていなかった。オーナーになったらそうなるのだろうか、いずれにしても自分には無縁の呼び方だと思ったのはひがみであろうか。

発音でもうひとつ余談、「ゴルゴ13」では以前、二重母音の /ei/ がオーストラリア英語で /ai/ と発音されることが大きな鍵となるストーリーがあった。世界を股にかけた主人公の作品だけに、スタッフもいろいろなネタを考えるものである。


参考:
「注意したい発音」一覧