「老人と海」で学んだ英語

海にちなんだ話の流れで、今回はこのヘミングウェイの小説にまつわる思い出について書くことにする。中学2年生の時、初めて買った数冊の洋書のひとつが、この "The Old Man and the Sea" だった。確か Penguin 版のペーパーバックで、表紙には Spencer Tracy 主演の映画のスチルが使われていた。

もちろん、当時の英語力で読めるはずはなかったが、その少し前に翻訳を読んで面白いと思ったので、深い考えもなく購入した。しばらく放っておいたが、そのうちに文庫本の邦訳を傍らに置いて、印象に残った場面を拾って眺めるようになった。

例えば、出だしの部分である。

彼は年をとっていた。メキシコ湾流に小舟を浮かべ、一人で魚をとって日をおくっていたが、一匹も釣れない日が八十四日も続いた。
(福田恆存訳)

これが、原文ではこうなっていた。

He was an old man who fished alone in a skiff in the Gulf Stream and he had gone eighty-four days now without taking a fish.

印象的な冒頭の2つの文が、原文では実は1文だったのが中学生の私にはちょっとした驚きだった。原文が1つだから訳も1文である必要はない、このように訳すこともできるのだ、と気づいた。

さらに、who は「誰」と習ったが、それでは意味が通じない。調べると、まだ学校で学んでいなかった「関係代名詞」であることを知り、参考書で自分なりに勉強してみた。また今振り返ってみれば、「関係代名詞であっても、後戻りせず、単語の順に理解すればいい」ということも、翻訳との比較で、この時におぼろげながらつかんだように思う。

この冒頭を含め、特に面白いと思った限られた部分だけを、訳文に沿って眺めていったのだが、分量としてはたいしたことはないし、単語をたんねんに辞書で引くわけでもないので負担もなかった(辞書を引くことが面白いと思うようになったのはずっと後のことである)。まだ中学生なので理解できなくて当然だと、焦りを感じることもなかった。

この後、同じ方法で、さらにいくつかのペーパーバックについて、一部の英文を眺め読みした。英語と日本語の「読み比べ」とすら呼べないようなもので、まともな学習法とはいえないだろう。だが、これによって、英語の活字がずらりと並んでいるのを見ても、さほど抵抗を感じなくてすむという「抗体」のようなものが、ある程度できたように思う。

また、その「抗体」は、自分が面白いと思ったものに英語をひきつけて学んだから身につけることができたのだろう。ある教材をどんなにいいと教師が思っても、学習者が皆それを面白がるとは限らない。逆に無味乾燥だと感じる生徒もいるかもしれない。英語の指導や学習の難しさは、そんなところにもあるのではないだろうか。


The Old Man and the SeaThe Old Man and the Sea
Ernest Hemingway

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