「威風堂々」とイギリスの愛国歌

1年前に「惑星の定義」騒ぎにからんでホルストの「惑星」について書いたが、同じように愛好されているイギリスの曲が、Edward Elgar の行進曲「威風堂々」の第1番である。仮にエルガーがこれ1曲しか書かなかったとしても、その名前は音楽史に刻まれただろうと思わせる名曲だ。

原題の "Pomp and Circumstance" は、「オセロー」のセリフに出てくる。シェイクスピアの原典は持っていないので、ネットで探してみた。

Farewell the neighing steed, and the shrill trump,
The spirit-stirring drum, the ear-piercing fife,
The royal banner, and all quality,
Pride, pomp, and circumstance of glorious war!
(第3幕第3場)

この部分、私が持っているちくま文庫の翻訳(松岡和子)では、

堂々たる軍旗、栄光の戦場にそなわるすべてのもの、
誇りと誉れ、威儀を正した行進や儀式!

となっている。この文庫版シェイクスピア全集は、注でしばしば原文の表現を併記していて勉強になるが、残念なことに、ここには pomp and circumstance を紹介する注はついていない。

書店で他の翻訳をのぞいたら、松岡訳とはちょっと違っていた。

軍旗の荘厳、輝かしい戦争のすべて、その誇り、名誉、手柄
(福田恆存、新潮文庫)

堂々の軍旗、名誉の戦さのあらゆる特性、誇り、光栄、はでやかさ!
(菅 泰男、岩波文庫)

堂々たる軍旗、輝かしい戦場におけるいっさいのもの、その誇り、壮絶な光景!
(小田島雄志、白水社)

辞書で pomp and circumstance を引くと、確かに「厳かさ」そのものと、もっと具体性を持つ「厳かな行列や儀式」の、2つの意味が載っている。こういうとき、ネイティブはどういうイメージを思い浮かべるものなのだろうか。ちなみに、エルガーの行進曲の邦題は「威風堂々」が定訳だが、子供の時に読んだ、父の持つ古い音楽解説の本には「威風堂々たる陣容」とあったのを覚えている。

脱線したが、続いて pomp と circumstance をそれぞれ英英辞典で引いてみた。pomp は ceremony and splendid display, esp. at a public event とある。

一方、circumstance は、私の使っている電子辞書に収められている Oxford Dictionary of English には、(archaic) ceremony and public display とあったが、同じ電子辞書の The New Oxford American Dictionary には、これが載っていない。同じオックスフォードの辞書とあってか、この2つはかなりの単語でほぼ同じ文言による定義を載せていると感じるが、今回のように英米で違った点を見つけると、やはりムダではないのだと思わされる。いずれにせよ、この単語については、この意味で使うのはイギリス英語だけなのだろうか。

自分の過去の英語学習テキストファイルやクリッピングを検索したら、こんな例が見つかった。

- Right behind Jackie sat her young and completely awed sister-in-law Joan, her eyes wide with astonishment at all the pomp and circumstance.
(Jackie はジョン・F・ケネディ夫人、Joan は弟エドワード・ケネディの夫人)

- The pomp included an elaborate honor guard, a military band, a fife and drum corps and the full 21-gun salute given visiting heads of state.

- "From a domestic Chinese point of view," says the Carnegie's Pei, "you have not really established your credentials as a leader until you have been received on the south lawn of the White House with all due pomp and ceremony," such as an honor guard and a 21-gun salute.

さらに、英和辞典にはこんな表現が出ていた。

- with pomp and circumstance 威風堂々と
- without circumstance 儀式ばらずに、手軽に

さて、ホルストの「惑星」の中の「木星」は、編曲されてよく知られていると書いたが、この「威風堂々」第1番も、エドワード7世の要望で歌詞がつけられ、「希望と栄光の国」 "Land of Hope and Glory" という歌として知られている。

この曲は、毎年の夏ロンドンで行われる「プロムス」というコンサートで、最終日に演奏されるしきたりになっている。この催しでは、他にも、イギリスの愛国歌として知られる歌や曲が演奏され、Thomas Arne の "Rule, Britannia!" や William Walton の "Crown Imperial" など、いかにもそれらしいタイトルだが、前者の邦題「ルール・ブリタニア」は、何かの規則、あるいは乗り物の名前かと思う人もいるかもしれず、今ひとつだと思っている。

以前、プロムスの様子をテレビで見たことがあるが、イギリス人にとって、やはり過去の栄華をしのぶよすがになっているのだろうと感じた。

参考サイト:
http://en.wikipedia.org/wiki/Pomp_and_Circumstance_Marches
http://en.wikipedia.org/wiki/Land_of_Hope_and_Glory
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Proms
http://en.wikipedia.org/wiki/Rule_Britannia


参考:
ホルストの「惑星」
「聖書・シェイクスピア」一覧

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