ホルストの「惑星」

先日、国際天文学連合が惑星の定義を討議していることについて書いたが、映画「スターウォーズ」の音楽を思わせる、SFスペクタクル音楽の元祖のような作品が、イギリスの作曲家ホルスト Gustav Holst の組曲「惑星」 The Planets である。地球と当時未発見だった冥王星を除く7つの惑星にちなんだ曲で構成されている。

個々の曲の順番とタイトルは、

Mars, the Bringer of War
Venus, the Bringer of Peace
Mercury, the Winged Messenger
Jupiter, the Bringer of Jollity
Saturn, the Bringer of Old Age
Uranus, the Magician
Neptune, the Mystic

となっている。国内盤のCDを見ると、「火星・戦争をもたらすもの」「海王星・神秘主義者」といった訳がある一方で、副題を「戦争の神」「神秘の神」などと「~の神」としている訳も目につく。ホルストは神話ではなく占星術に基づいて作品の想を練ったことを考えると、「神」とするのは適切とはいえないだろう。

7曲のうち、「木星」の中間部は特に愛好されている。特に "I vow to thee, my country" というタイトルで編曲された歌はよく歌われているということで、ダイアナ妃の葬儀にも使われた。日本でも、CMに使われたりして知られているメロディーであり、記憶に新しい編曲ものでは平原綾香の「Jupiter」がある。

最初に書いたように、この組曲にはスペクタクル的要素があるので、それを強調した演奏もある。例えば、レヴァインというアメリカ人指揮者がシカゴ交響楽団を振った80年代後半の録音は大迫力で、出たときに評判となり、私も喝采して聞いていた。しかしいつの頃からか(ファンの方には申し訳ないが)うるさくて頭が痛くなるように感じてきた。それほど前の録音ではないのに、現行の再発CDは海外盤、国内盤とも価格を下げた廉価盤として出たのは、以前ほど評価されていないということなのだろうか。

繰り返し鑑賞するのに向くのは、オーケストラをガンガン鳴らしたタイプではなく、むしろ、「木星」の中間部や、「金星」、「海王星」などの静かな曲を情感豊かに描いた演奏ではないかと思っている。「お国もの」だから、というのではないが、イギリス人による演奏は単に能天気にパワー全開とするのではなく、聞かせるツボを心得ているようだ。

中でも私が気に入っているCDは、Sir Charles Groves が指揮したものだ。日本の音楽評論家のセンセイ方は全く無視しているマイナーな録音だが、ネットで検索したらこの演奏のファンが複数いて、何となくうれしくなった。

2000年になって、Colin Matthews という作曲家が、この作品の補作として ”Pluto, the Renewer" という曲を新たに作った。複数のCDが出ているが、個人的にはホルストの曲と作風の違いが大きくて、違和感が拭えなかった。国際天文学連合が検討している案が通って惑星の数がさらに増えたら、ますます中途半端な曲になるのではないかと思う。なお、この「冥王星」の副題も、国内盤では「再生する者」 のほか、「再生をもたらす神」「再生の神」などとなっており、「~の神」という訳の呪縛からは逃れられないようだ。


ホルスト:惑星(冥王星付き)
ホルスト:惑星(冥王星付き)
ラトル
EMIミュージック・ジャパン

Holst: The Planets; St. Paul Suite
Holst: The Planets; St. Paul Suite
Gustav Holst Charles Groves Royal Philharmonic Orchestra
Sanctuary Records

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さよなら冥王星