ビル・エヴァンスの名盤 Waltz for Debby

久しぶりに、ジャズ・ピアニスト Bill Evans のトリオによる「ワルツ・フォー・デビー」 Waltz for Debby を聴き、改めて心を奪われた。

1961年にニューヨークのクラブで行われたライブ―gig という単語がある―を録音したもので、すでに揺ぎない評価を確立しているが、ふだんジャズを聴かない人でも気に入ってしまうだろうと思う名盤である。

それは、何よりも演奏がすぐれているからなのはいうまでもない。例えば1曲目の "My Foolish Heart" は、演奏や歌唱によっては単にべたべたしただけになってしまう大甘のラブソングだが、エヴァンスは神業のような柔らかいタッチで最初の音を奏でたあと、耽美的ともいえる演奏を繰り広げていく。他のアーティストの演奏と比べると、まったく別の曲に聞えるほどだ。

さらに、久方ぶりに聴いて思ったのは、演奏以外にも、このアルバムを名盤の名に値するものにしている要素がいくつかあるということだ。

例えば、ライブ録音ながら、ピアノ、ベース、ドラムス、の3つの楽器の音をマイクが鮮やかに捉えているが、それに重なって、クラブに集まった客たちが語りあい、笑いさざめく様子、そして酒のグラスの音も聞えてくる。それは、演奏と絶妙のバランスを保って、まったく鑑賞を妨げないレベルに抑えられており、ライブの雰囲気を大変よく伝えている。

また、ここに収められているのは、当日の全体のライブから一部を選び出したもので、曲順も実際の演奏順とは異なっているが、ひとつのまとまったアルバムとして聴き通すことができる、優れた選曲と編集がされている。

このライブの10日後、エヴァンスのピアノと絶妙なインタープレイを奏でていたベーシストのスコット・ラファロが交通事故で急死し、エヴァンスは衝撃でしばらく活動ができない状態になる。もともとライブの録音からは1枚だけアルバムが作られる予定だったが、結局、この "Waltz for Debby" を含めて2枚のアルバムが制作されることになった。何たる運命の悪戯か、ベース奏者の不慮の死が、今ある形でこの名盤を生み出したともいえるかもしれない。

そしてエヴァンス自身、1980年に51歳の若さでこの世を去り、その繊細なピアノを聴くことはもはやできない。

このアルバムは、演奏自体、何度聴いても色褪せないものだし、また演奏以外の要素やエピソードによってもいっそう愛着が深まる、まさに不朽の名盤だと思う。ジャズのアルバムでは重要な、ジャケットのデザインも見事だ。



Walts for Debby
Bill Evans
Riverside