定冠詞がつくThe Hagueをめぐるあれこれ

前回紹介した「英語の冠詞ドリル」は、単数形の場所の名前には定冠詞がつかないと説明したうえで、例外として the Hague (国際司法裁判所のあるオランダの都市)をあげている。私の持っている「レクシス英和辞典」には、この都市名について、興味深い表記の不統一がある。

この辞書(2003年1月の初刷)で Hague を引くと、(the~) となっているが、the を見ると、用例のひとつに The Hague があり、「The は大文字」という注があるのだ。

同じ辞書の中の不統一はちょっとカッコ悪いが、それはともかく、こういう注をつけているからには The の方が正しいのだろう。「英語の冠詞ドリル」では小文字になっているが、the を使ってはいけないということなのか。そもそも、なぜ大文字になるのか。

電子辞書に入っている「ジーニアス英和大辞典」が、解答を教えてくれる。それによると、The は フランスの都市 Le Havre のように固有名詞の一部であり、だから Hague に小文字の the を使うのは誤りだが、それが忘れられて the とする人もいる、とのことだ。

固有名詞の一部ならば、英語でもいっそのことオランダ語の原語と同じく Den Haag と表記すればいいのに、と思ったりもしたが、ヨーロッパの地名は、言語によって表記が異なるのが当たり前のようであり、そうはならないということか。

日本語でも、「ハーグ」ではなく、原語の定冠詞をつけた「デンハーグ」という表記を見かけることがある。ところが実際には、Haag の語尾 g は、英語の /g/ とは違う音で、カタカナで書くなら「ハーフ」とするのが原音に近いのだそうだ。「デンハーグ」と言っても、原音を尊重したことにはならないというわけだ。そういえば、オランダ人の画家 Vincent van Gogh も、原音は日本で一般的な「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ」とも、英語の発音とも違う音だということを思い出した。

さらに脱線すると、この Den Haag も、実は正式名称ではないのだそうだ。本当は 's-Gravenhage (「ス・フラーフェンハーヘ」)といい、オランダ語を知らない私には 's で始まる綴りが不思議で面白い。意味は「伯爵の生け垣(に囲まれた領地)」ということだという。

話を英語に戻すと、Hague に定冠詞がつくことを私が知ったのは、学習書等で学んだのではなく、ニュースの英文に触れてだった(それでも、長らく小文字の the だと思っていた)。あらためて家にある数冊の英文法の本を見直したら、1冊を除いてこれを取り上げたものはなかった。評価が高い「英文法解説」や「表現のための実践ロイヤル英文法」にも、私が見た限りでは載っていない。

出版されている参考書を片端から調べたわけではないが、定冠詞や固有名詞の説明で、この The Hague という例外をあげている本は、もしかしたらそれほど多くないのかもしれない。といっても、こうした例外的事例の記述のあるなしで参考書を評価しようというつもりはもちろんない。


関連:
「英語の冠詞ドリル」
定冠詞をつける国名(the Congo など)