nuclear の発音をめぐって

日本時間のきょう未明にかけて、訪米中の小泉総理大臣がブッシュ大統領と会談した。その後に行われた記者会見の映像が、スクリプトとともに、さっそくホワイトハウスの公式サイトにアップされていた。

最初の方で、ブッシュ大統領がいきなり、

It was not always a given that the United States and America would have a close relationship.

とやっていたのには、「おいおい Japan だろうが」と笑えたが、まあそれはともかく、相変わらず大統領は nuclear を正しく発音していないようだった。

ブッシュ大統領の nuclear の発音の誤りは前からよく指摘されていて、本人も間違った発音であることをとうに自覚しているはずだ。

例えば今年4月、大統領がそっくりさんの物まねタレントと「共演」したことがあったが、そのときに出てきた「お笑い」のひとつが、そっくりさんが本物のブッシュ氏に nuclear の正しい発音をコーチするというものだった。この催しは日本のニュースで見たのだが、発音を笑いのネタにしたとの説明と「核」という字幕の訳はついていたものの、発音の違いが聞き取れない人にはおかしさがわからなかったのではないだろうか。

それはともかく、意識して正しくするのは面倒なので、言い慣れている今のままでいいと思っているのか、それともいまらさら発音を正すのは気恥ずかしいのか(そんな「恥」の感覚があるとも思えないが)、とにかくブッシュ氏は、今も nucular などと綴られる変則発音で通している。

規範的ではない発音を耳にする単語としては、他に February や library があるが、nuclear の変則的な発音も、実はブッシュ大統領に限ったものではないらしい。私もネットのインタビュー番組などで他にも何回か聞いたことがあり、中には核問題の専門家もいた。

Wikipedia は、この発音の項目を設け、次のように書いている。

This pronunciation is disapproved of by some who consider it a mispronunciation, although most influential dictionaries recognize it to some extent and it appears to be used increasingly.

( http://en.wikipedia.org/wiki/Nucular )

さらに次のような記述もあり、やはりブッシュ大統領は印象が強いようだ。

U.S. Presidents Dwight D. Eisenhower, Jimmy Carter (who served as an officer on a United States Navy experimental nuclear submarine), Bill Clinton, and George W. Bush have all used this pronunciation however Bush has become most closely associated with it due to his repeated use of it.

スタンフォード大学の言語学の先生が書いた、ことば(英語)についてのエッセイをまとめた本があるが、"Going Nucular" というタイトルでわかるように、この発音について取り上げている。

タイトルと同名のエッセイでは、ブッシュ以外に nucular のように発音する人をあげたうえ、この発音は、核兵器を指すのに限って使われるようだという見方を示している(つまり、nuclear families というときには nucular のようにはならない、ということだ)。

この本は、政治家など現代アメリカ人のことばの使用についてのいろいろな観察を集めたもので、William Safire の連載コラム "On Language" とちょっと似た趣もある。アメリカで暮らしていないとわからないような単語もあるが、日本にいても見聞きする、Iraq や Iran の i を /ai/ と発音する人のことなど、興味深い指摘をユーモアとともに語っている。

余談だが、nuclear を縮めた nuke には、「核爆弾(で攻撃する)」とか「原子力」などのほかに、「~を電子レンジで料理する」という意味がある。同じ意味を持つ単語が zap である。どちらも字面や音は一見恐ろしげだが、つまりは「チンする」ということだと知ると、何となく力が抜ける。

さて、小泉首相についてはさまざまな評価があるだろうが、今回の会見では、ブッシュ大統領から「小泉さんはエルヴィス・プレスリーのファンで…」と言われたのを受けて、会見の最後にたぶん即興で、

Thank you very much, American people, for "Love Me Tender."

と言って笑いを取ったのは、パフォーマンスとはいえ、やはりこれまでの日本にはなかったタイプの政治家だと思った。ちなみにエルヴィスと小泉氏は、誕生日が同じ1月8日だそうだ。

ホワイトハウスのサイトにある今回の記者会見の記録は、
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/06/20060629-3.html

ブッシュ大統領とそっくりさんの共演についてのまとまった記事はこちら。
http://www.cbn.com/cbnnews/politics/060501b.aspx


Going Nucular: Language, Politics. and Culture in Confrontational Times
Geoffrey Nunberg
Public Affairs


参考エントリ:
「注意したい発音」一覧