You and your ...

翻訳として自然な日本語になるならば、不定代名詞の you を時には「君」と訳しても構わない、という柴田元幸氏の考えを前回紹介したが、直接関係はないものの、連想したのがこの "You and your(名詞)." だ。日本語として不自然な翻訳をきっかけに覚えた表現である。

かなり前のことになるので、何で読んだのか具体的には覚えていないが、「君と、君の○○」というような訳を読んで(後に続く名詞が何だったかも忘れてしまった)、何だか変だ、意味が通じないな、と感じたものだった。

その時は放っておいたが、その後思い出して調べたら、You and your ... という表現があることを知った。かの翻訳の原文は、これに違いないと合点がいった。

今使っている電子辞書の「ジーニアス英和大辞典」にある説明と例文を引用しよう。

またいつものお前の…が始まった(もうたくさんだ) <◆Her and her ... Him and his ... などと拡大しても用いられる>

"I want to feed my tropical fish first." "You and your tropical fish." 「まずは熱帯魚にえさをやらなくちゃ」「またあの熱帯魚のことかよ」

your には、直接所有しているものではないものについて、「よく言われている(知られている)」「例の」、非難めいて「あなたがいうところの」という意味もある。英英辞典には、(informal) used with little or no sense of possession to indicate a type familiar to the listener と説明されている。この意味と関係がある表現のようにも思える。

私の持っている辞書の中には、この You and your ... を載せていないものもあり、それほど重要な表現とみなされていないのかもしれない。私も、これまで耳にしたことがあったのかもしれないが、記憶には残っていない。英語圏で生活していれば、こうした表現を聞く機会も増えるだろうが。

かつてはこうした、新しい表現を知るきっかけになるようなおかしな訳や、原文を復元できるほどの直訳調の翻訳などを見かけて、かえって英語学習に役立つわい、などと考えたこともあった。最近は以前ほど翻訳ものを読まなくなったが、それでも、さすがにこうした翻訳は減り、昔のような意地悪な学習方法も取りようがなくなっていることだろう。


参考:
村上春樹の「総称のyou」論