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zoom RSS show the flagの波紋

<<   作成日時 : 2007/10/20 11:06   >>

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前回の boots on the ground から連想した show the flag について思い出を書くことにする。911テロのあとアメリカが日本に対して使ったとされ、自衛隊の派遣を求めたものだと大騒ぎになった表現である。本当にこの言葉が使われたのか、そしてこれが何を意味するかをめぐって、不明な点があったことも騒ぎに拍車をかけたのだった。

この言葉は、テロ直後にアーミテージ国務副長官(当時)が日本の駐米大使と会った際に言ったとして伝えられた。「日の丸を見せてほしい」などと訳され、自衛隊派遣の要求だとして波紋が広がった。しかしその後、会談でこうした表現は出なかったと報じられたり、このイディオムの持つ意味からは自衛隊派遣につながらないと指摘されたりして、真相ははっきりしないまま、小泉政権はアメリカの軍事作戦への支援に踏み切ったのだった。

少なくともこれに類する言葉がアーミテージ氏から出たのは確かだという報道もあったと記憶するが、事実がどうあれ、show the flag という表現が大きく取り沙汰されたことに変わりはない。私の持っている電子辞書には、

- (特に軍艦が)外国の港などを公式訪問する
- (武力を背景に)権利を主張する
- 旗幟(主張)を鮮明にする
- 自国(自党)への支持(忠誠)を明らかにする
- パーティーなどに一応顔を出す

- (of a naval vessel) make an official visit to a foreign port, especially as a show of strength
- show your support for your country, an organization or an idea to encourage or persuade others to do the same

と説明されている。

発言が伝えられた後、英語の専門家や評論家が、こうした show the flag の意味を示して、「旗を見せよ」は誤訳であり、自衛隊の派遣とは関係がないと解説した。また野党は、「政府はこの表現を曲解して自衛隊の海外派遣に利用しようとしている」と国会で追及した。「ショー・ザ・フラッグ」はこの年の流行語リストにも入った。

私はそれまで show the flag というイディオムは知らなかったので大きなことはいえないのだが、英語の専門家や評論家、野党議員のこうした指摘に、実はちょっと違和感を覚えた。

辞書的な意味はこうだ、だからアーミテージ氏が自衛隊派遣を求めたことはありえない、と言えるものなのだろうか。仮に自衛隊の派遣を直接求めるものではなかったとしても、日本が自発的な形で行うよう、この発言で圧力をかける狙いがあったのではないか。そんな風にも考えた。

実をいうと、ベーカー駐日大使(当時)は「これは『立場をはっきりさせる』という慣用表現で、自衛隊の派遣まで求めたとは思わない」と記者会見で述べている。ただ(英語でどう言ったかわからなかったが)自衛隊派遣について明確に否定した言い方でもないと思った。

その後、あるネイティブスピーカーと話をした際に、この表現について考えを聞いてみた。「状況にもよるが、あのようなテロ事件を受けての会談であれば、単に『アメリカの側について欲しい』ということではなく、日本の協力や貢献を具体的な形で見せてほしい、と求める意味で使うこともありうるだろう」というのが彼の考えだった。

もちろん、ある限られたネイティブの意見だけで判断するのは愚かなことだが、少なくとも、この表現を広い意味で受け取る人も実際にいたわけである。

表現の辞書的な意味を知るのは、もちろん大切なことだ。しかし、言葉とは生きた人間が使うもの。状況や文脈に応じて、何を指しているのか、どう捉えるべきかを、常に探らなければいけないのだろうと思った。今、辞書の定義や説明をこちらで紹介することが多いこともあり、改めて自戒したいところだ。

特に解釈に幅の余地がある表現の場合、具体的にどういう意図があるのか、何を意味しているかは、究極的には発言者本人に確かめなくてはわからないはずだ。しかし相手の言語がわからない場合は、その言葉や表現についての疑問点を相手に質すことができないおそれが大きいのではないか(通訳者は、個人的に疑問を持っても質問は許されないはずだ)。国際交渉は、そうしたリスクの上に成り立っているのだろう。

以上が、show the flag にまつわる思い出である。この発言については、もしかしたらすでに真相が明らかになっており、私がそれを知らないだけで、とんでもない思い違いをしているかもしれない。それでも、今でも show the flag といえば、外国語や外国との交渉について上に書いたようなことを考えさせられた当時を思い起こすのである。

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